いつもコラムをお読みいただきありがとうございます。株式会社日本給食業経営総合研究所、給食業経営コンサルタントの宮崎です。
今、伸びている給食会社の共通点は、営業マンを複数名抱え、組織的に営業を実施し、営業に注力している企業です。このことから言えるのは、やはり「営業は止めてはいけない」ということです。特にコロナ禍による円安の影響で、食材費はどんどん高騰しており、各給食会社様はさらなる値上げを検討しています。これにより、長年なんの不満も抱いてこなかった納品先の既存客からすると、値上げは給食会社を見直す「きっかけ」となっております。このタイミングで営業をかけている給食会社には食数を伸ばすチャンスがあります。逆を言うと、営業を止めると食数の伸びが鈍化してしまいます。
このような外部環境だからこそ、営業の前の見込み案件づくりが重要となってきます。では見込み案件→契約まで、いくらの販売促進費をかけても良いか、社内での判断軸はございますでしょうか?この販売促進費を投資額とみて、しっかりとした判断軸を持っておれば、先手先手で積極的に手を打つことができます。今回は、「1顧客獲得のための販売促進の投資額」についての考え方をお伝えしたいと思います。
LTVという考え方
LTVはLife Time Valueの略称です。
日本語に訳すと、顧客生涯価値といった意味です。顧客生涯価値とは、顧客が自社の製品やサービスの利用をやめるまでに、自社にもたらした利益の総額を指します。
LTVが重要視されるようになった背景には、市場の飽和が挙げられます。これから成長している市場であれば、とにかく新規顧客を獲得することで売上を伸ばすことができます。つまり販売促進による露出が増えれば、自然と売り上げがあがります。しかし給食業界、特に事業所向けの産業給食や委託給食に限れば、企業数の減少、労働人口の減少、コロナ禍による出社制限や働き方改革で、市場は減少傾向です。この外部環境では、新規顧客獲得することは容易ではありません。
LTVを高めるためには、既存顧客の維持が欠かせません。マーケティングには以前のコラムで書かせていただいた「1:5の法則」や「5:25の法則」がありますが、いずれも新規顧客獲得ではなく既存顧客維持の定着化の重要性を表す法則です。顧客の定着化については、併せてこのLTVという考え方が重要な指標となってきます。LTVの計算方法はいろいろありますが、給食業界における最も簡単な計算方法は、下記のようになります。
LTV=商品単価×1件当たりの食数×取引機継続期間
給食業界は1度顧客と契約すれば、毎日お食事をお届けする契約期間は1年、2年、3年というのも決して珍しくありません。今回は仮に商品単価:400円、1件当たりの食数:5食、継続期間:1年間として、考えてみると、「1顧客あたり」の「取引期間中の総売上」は400円×5食×240日(20日/月×12ヶ月)と表すことができます。
限界CPOという考え方
CPOはCost Per Orderの略称です。これは1件の新規の受注・顧客獲得に対してかかる販売促進費を示す指標です。CPOは以下の計算式で算出できます。
CPO=販売促進費 ÷ 新規顧客獲得数
このCPOは、マーケティングにおいて頻繁に耳にする用語だと思いますが、「限界CPO」はあまり耳馴染みのない言葉かもしれません。限界CPOとは商品の販売にあたり、1件の新規顧客獲得にかけることができる「限界」のコストのことを言います。この数値よりも販売促進費用が上回ると、赤字で顧客を獲得したことになってしまう指標のことです。つまり限界CPOより販売促進費用を低く設定できれば、その販売促進は良いという判断ができることになります。
この限界CPOを把握できるということは、販売促進費の投資額の指標を持つことができるということなので、積極的な販売促進への投資ができます。限界CPOにもいくつか計算式がありますが、給食業界ではシンプルに考えるために、利益率を用いた下記の計算式で算出しています。
限界CPO=LTV × 利益率
先述の例をとってみると、限界CPO=(LTV)48万円×(利益率)10%=4.8万円となります。「1件5食の案件」を4.8万円かけて獲得すると聞くと、感覚的には大きく損をしている気がしますが、決して赤字にはなりません。実際は限界CPOが4.8万円となることは、あまりありませんし、逆に取引継続期間は2,3年ということは大いにあり得ます。販売促進費にこれだけ投資しても赤字でないという指標を知っていると、攻めるべき時に積極的に投資できるので、自社内での基準を知っておくということは必要となりますので、ご参考にしていただければと思います。