
株式会社日本給食業経営総合研究所(日給研)副代表の井上裕基です。
日本の人口構造は急速に変化しており、特に医療・介護現場では高齢化と人材不足が深刻さを増しています。厚生労働省の統計によると、介護職員数は年々増加させようとしているにもかかわらず、需要の伸びに追いついていません。現場の声として多く聞かれるのは、「調理担当者が確保できない」「長期的に安定した食事提供体制を維持するのが難しい」という課題です。
こうした状況は、食品製造業にとって新たなビジネスチャンスでもあります。これまで地域の弁当・給食・惣菜製造を担ってきた企業が、その生産力を病院・高齢者施設向けにシフトまたは拡大させる動きが加速しています。その中心的なモデルが「セントラルキッチン代行事業」です。
セントラルキッチン代行事業とは何か?
セントラルキッチン代行事業とは、病院や介護施設などの調理業務を自社工場で一括調理し、出来上がった食事を配送する仕組みです。施設側は調理人材や設備を抱える必要がなくなり、食品製造業側は既存工場を有効活用しながら安定的な受注を確保できます。
このモデルの強みは、大きく三つに集約されます。
1つ目は収益性の高さです。導入事例の中には、初年度年商8,000万円超・営業利益率20%を達成したケースもあります。
2つ目は地域密着型の安定需要です。高齢者施設や医療機関は景気変動の影響を受けにくく、長期契約が見込めます。
3つ目は社会的価値の高さです。地域の福祉や医療インフラを支えるという明確な使命を帯びた事業であり、企業ブランドの向上にもつながります。
高まる需要と参入のポイント
なぜ今、この事業への需要が高まっているのでしょうか。第一に挙げられるのは現場の人材不足です。特に調理担当者の採用は年々難易度が上がり、離職率も高い傾向があります。第二に、施設の運営管理コスト負担です。手作り調理は温度管理や異物混入防止など、多くのリスクとコストが伴います。新規建設費は、とてつもないコスト高騰です。第三に、多様化する食事ニーズです。アレルギー対応や嚥下食、カロリーコントロール食など、個別対応の要求が増えています。これらの課題を解決するには、施設単位での調理よりも、集約型のセントラルキッチン方式の方が合理的です。大量調理に適した設備とノウハウを持つ食品製造業は、この需要を的確に捉えることができます。
ただし、参入にあたっては営業先の明確化、商品ラインナップの適正化、配送体制の構築といった要素が成否を分けます。また、施設との信頼関係構築や契約条件の工夫も重要です。短期的な取引ではなく、長期にわたり安定した関係を築くための体制づくりが求められます。
地域と給食業の持続的な成長モデル
セントラルキッチン代行事業は、単なる売上拡大策ではなく、地域社会全体の持続可能性を高める取り組みでもあります。企業にとっては設備稼働率や売上の安定化、地域にとっては食の安定供給という双方にメリットがある仕組みです。今後も高齢化と人材不足は続く見通しの中、この事業モデルはますます存在感を高めるでしょう。既存の製造体制や人材を活かし、地域に貢献しながら自社の成長を実現する。この両立こそが、これからの食品製造業に求められる経営戦略の一つです。

なお、こうした事業の具体的な立ち上げ手順や成功事例を学べる機会として、日本給食業経営総合研究所ではモデル事例を紹介するオンラインセミナーを9月下旬に開催予定です。興味のある方はぜひお越しいただければと思います。


