食品業界が、人々にとって無くてはならい業界であることは言うまでもない。
その中でも給食業界は、学校や病院、介護施設、社員食堂などに毎日の食事を提供しており、人々の食生活を支える存在である。昨今においては、共働き世代の増加とそれに伴う待機児童問題の影響により、保育所が増加傾向にあること、高齢化社会の進行により介護施設が増加していることも相まって、より一層社会の“食”のインフラとして大きな役割を担っているように感じる。
食品産業が担っている役割は、単なる食品の生産と供給という機能だけではなく、〝食〟を通じて人々の豊かな生活を実現するといった側面が強くなっている。
しかし、国内市場の成熟化、原料調達リスクが高まるなかで、慢性的な人手不足や、東日本大震災や新型コロナウイルスといった度重なる災害への対応など、かつて経験したことのない困難な状況に直面している。様々な災害に直面する度に食品業界の重要性が再認識される一方で、これまでと同じやり方でビジネスを行っていても存続が困難な会社が多くなってきている。
実際に経済産業省の産業別統計表によると、国内の食品製造業の事業所数は2015年の2万8239から、2019年には2万3648まで減少している。年平均で、1148軒が減っていることになるのだ。食品卸や食品小売りの業界でも同様な傾向が起きている。
事業所数の減少は日々の営業への影響が見えにくいため、なかなかイメージできず、このような状況下にあることをつい忘れてしまう。しかし、事業所数の減少は今後、真綿で首を締めるように日本の豊かな食文化をゆっくりと確実に蝕んでいくことになるだろう。
そういったなか、食品業界のあらゆる業種で、従来のように拡大する市場のパイを分け合う形での成長を見込むことができなくなり、「業界再編」が必至となってきている。
これまでは様々な地域で、その地域の食文化に根差した食品関連の企業が多数のビジネスを行っていた。しかし、食品スーパーやコンビニ、大手食品卸の再編が加速していくなかで、地方の食品製造業や食品卸の会社も取引先の消滅などのため、再編を余儀なくされてきている。この再編の流れは不可逆的なものであり、誰も止めることが出来ない。
業界再編が引き起こると、中途半端な企業規模の会社は低収益性につながる場合が多くなる。そのような環境のなかで、企業の選択肢は二つと考えられる。とことん規模を追求し、収益性の臨界点まで突き進むか、または戦略的な規模の圧縮を行い、高付加価値型のビジネスへと転換していくかだ。
特に前者には、Ⅿ&A戦略は非常に重要な戦略の一つとなる。自らがその業界・地域を引っ張っていく存在になるのか、それとも他社のリソースを活用して、業界再編という荒波を乗り越えていくのか。食品業界の経営者はまさに今、大いなる選択をしなければいけない岐路に立たされている。
M&Aによる双方のメリットとは?
M&Aがもたらすメリットは譲渡企業にも譲受企業にも様々なものがあるが、代表的な双方のメリットをいくつか紹介する。
・譲渡側から見たM&Aのメリット
【事業継続ができる】
事業承継問題を解決できるというのはМ&Aで最も注目されているポイントである。
M&Aで事業承継することで長年磨いてきた技術や蓄積したノウハウが失われるのを防ぐことができ、譲渡企業が抱える事業承継問題は一気に解決される。
【従業員の雇用を守れる】
後継者不在で会社を休廃業するということは、従業員が職を失うということに繋がる。М&Aを行うことにって、特に中小企業にとっては、経営地盤が安定している譲受企業が見つかれば、企業や従業員の生活を今よりも安定させられる可能性がある。
【経営基盤を強化できる】
自社に足りないリソース(ノウハウ・人材・ネットワーク・資金等)を譲受企業から供給してもらうことにより、自社の成長にドライブをかけること、強固な経営基盤の構築が可能となるだろう。
【創業者利益を獲得できる】
株式譲渡によるM&Aでは、株式を保有するオーナーが譲渡益を獲得でき、新たな事業を始めたり、自身のために使ったりすることが出来る。
・譲受側から見たМ&Aのメリット
【経営資源の獲得時間を短縮できる】
譲受側のМ&Aにおける最大のメリットは、“時間”を買うということにある。新たに事業を作り出す場合、設備はもちろん知識・ノウハウを持った従業員も用意する必要があるため、多くの時間を費やすことになる。その点、M&Aでは資金面のコストだけで経営資源を獲得できるので、従業員を1から見つけたり育てたりする必要がない。そのため特に市場の変化が早いような業界では、経営資源を迅速に確保できるM&Aが重宝されることもある。
【シェア拡大を見込める】
同業の会社を譲受することで、譲渡した会社が保有していたシェアや顧客を引き継ぐことになるため、業界内でのシェア向上を見込めるだろう。
【事業多角化を図れる】
新規事業に参入・展開することも可能であり、事業の多角化が図れるため、業績拡大や事業リスクの分散などを期待できる。
【シナジー効果を期待できる】
互いの長所を活かしあうことで、複数の企業・事業を組み合わせることで、単体で得られる以上の成果を得られる。
給食業界におけるM&A事例
それでは、具体的に給食業界においては、どのようなМ&Aがこれまで行われてきたのだろうか。直近の事例を3つ用いながら解説をしていく。
- 同業同士による規模拡大のМ&A
【株式譲渡】譲渡:新東京食堂(東京)譲受:東京ケータリング(東京) 2022年
学校給食やカフェテリア&レストラン事業などを展開する東京ケータリングは、東京都及び群馬県を中心に大学や工場等での給食事業を営む新東京食堂の全株式を取得した。グループとして給食事業の規模拡大を行い、両社の発展を目論んでいる。
- 高付加価値の給食事業を目指すМ&A
【一部資本参加】譲渡:シダックス(東京)譲受:オイシックス・ラ・大地゙(東京) 2022年
オイシックス・ラ・大地は、シダックスに資本参加した。オイシックスが行うウェブサイトやカタログによる一般消費者への有機野菜、特別栽培農産物、無添加加工食品等、安全性に配慮した食品・食材の販売事業と、シダックスグループが行う医療施設、高齢者施設、保育園、事業所などに向けた集団給食事業を中心に業務提携を行うことで、より付加価値の高い給食事業を目指していく。
- 給食事業のノウハウを新たな市場で活用するМ&A
譲渡:マシモ(東京)譲受:レパスド(東京) 2020年
トータルフードサービスのレパストは、寿司弁当など製造販売のマシモから全事業を譲り受けた。マシモは調製の困難な鮮魚料理を風味豊かな商品としてリーズナブルな価格帯で提供する技術・ノウハウを持っている。レパストは社員食堂、病院給食、学校給食など約750の事業所や「ストーク」ブランドでの食事宅配事業などを展開しており、今回のМ&Aでグループとして真空調理・小規模給食部門のプチグルメと連携した中食分野への参入を強化していく。
これらの一例は業界の中で、発生したほんの一部の事例であるが、給食業界においてもМ&Aは日常化してきている。M&Aは本来的には譲渡企業・譲受企業それぞれの課題を解決し、より良い業界、より良い企業となるべく行動を起こしていくべきものであるため、一人でも多くの経営者・オーナーの方には正しいМ&Aの知識を取得して頂きたい。
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