給食業界とは、学校や病院・社員食堂などで日常的に食事を提供するサービスを指します。そして近年、給食事業のM&Aが活発化を見せています。
この記事では、以下の内容を解説しています。
- 給食業界の定義について
- 給食業界の将来性
- 給食業界が抱える課題
- 給食業界のM&A動向
記事の後半で特に給食業界のM&Aについて詳しく解説しているので、給食業界の動向や将来性について知りたい方はもちろん、給食事業を売りたい・買いたいとお考えの経営者の方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
1.給食業界とは?定義について
給食業界とは、学校や病院・社員食堂・福祉施設などで、毎日のお食事を提供するサービスを指します。飲食店やホテル・旅館などに来店した方への食事とな異なり、学校や病院・社員食堂などで食事を提供する「集団給食」が給食業とされています。
近年では、保育所や介護施設の増加に伴い「集団給食」の需要が増加しています。これにより、給食業界全体の需要が拡大しており、新たなビジネスチャンスが生まれています。
2.給食業界の将来性とは?
集団給食の需要が増加している給食業界ですが、将来性はどの程度あるのでしょうか。直近の市場動向と、今後考えられる給食業界のシナリオについて解説していきます。
2-1.給食業界の直近の市場動向と今後考えられるシナリオ
給食業界は、コロナ禍を通じてその重要性が再確認されました。特に、高齢者向け給食市場が成長を見せています。以下のグラフは、矢野経済研究所の調査による「メディカル給食・在宅配食サービス市場規模推移・予測」です。
引用:メディカル給食・在宅配食サービス市場に関する調査を実施(2023年) | ニュース・トピックス | 市場調査とマーケティングの矢野経済研究所
上記のグラフからもわかるように、メディカル給食や在宅配食サービスの需要が拡大しています。具体的には、高齢者向け個人宅配食や施設向けパック惣菜が市場で成長しており、一部の企業は弁当給食業よりも成功しています。
市場の成長要因として考えられるのは、以下のような点です。
- 高齢者人口の増加
- 在宅医療患者数の増加
今後、さらなる省人化が求められる中、盛り付け不要の冷凍弁当や完調品が注目されています。冷凍弁当や完調品であれば、効率的に味の整った給食を提供することが可能です。
給食事業は、老若男女問わず全ての世代のニーズに応える食品メーカーへと進化していくと考えられます。今後の市場の動向に注目しつつ、サービスの多様化と効率化を追求することで、更なる成長が期待されます。
3.給食業界が持つ事業特性
給食業界の市場動向や将来性を図るうえで、事業特性を知ることは大きなポイントです。給食業界の事業特性として、以下の4点を解説していきます。
- 給食提供先の利用者数に変動が少ない
- 設備投資が不要な場合がある
- 対応の柔軟性が求められる
- コストの大多数は人件費と食材費が占めている
それぞれ見ていきましょう。
3-1.給食提供先の利用者数に変動が少ない
集団給食では、学校や病院、福祉施設、企業の工場などに対して日常的に食事を提供するため、利用者数に大きな変動が少ないストック型ビジネスであることが特長です。そのため、レストランやカフェのように、来店者数に左右されることはありません。
そのため、継続的な売上を期待でき、安定した経営が可能です。利用者数の変動に応じて柔軟な対応をおこなえば、需要の低下による売上減少も避けられます。
3-2.設備投資が不要な場合がある
給食事業では、依頼側の施設を利用して調理をおこなうケースが多く、設備投資を抑えられることが魅力です。依頼側の設備を借りて調理する場合、自社で設備を整える必要がなく、コストを削減できます。
初期投資を抑えながら事業を展開できる点が、給食事業の強みの一つです。
3-3.対応の柔軟性が求められる
給食事業では、契約内容が依頼先ごとに異なるため、柔軟な対応が求められます。設備の用意、食材の購入、人材の派遣、メニューの要望など、依頼先のニーズに応じた対応が必要です。
たとえば、学校では生徒向け、病院では患者向け、福祉施設では入居者向け、企業では社員向けのメニューが求められます。それぞれのニーズに応じたサービスを提供することで、信頼を得て長期的な契約を維持することが可能です。
3-4.コストの大多数は人件費と食材費が占めている
給食事業のコストの多くは、人件費と食材費が占めています。設備は既に確保されているか、依頼先が用意していることが多いため、主な費用は従業員の賃金と食材の購入費となります。
そのため効率的なシステムを導入し、人件費と食材費を抑えることができれば、利益を上げやすくなるでしょう。適切な人材配置や作業の効率化、食材の一括購入などが重要です。
4.給食業界が抱える課題
給食業界には、課題も多いとされています。特に課題としてよく挙がるのが、以下4つの点です。
- 慢性的に現場の人手が不足している
- 事業後継者が不足している
- 運営コストが増加している
- 競合との差別化をしにくい
一つずつ解説します。
4-1.慢性的に現場の人手が不足している
給食業界では、現場の人手不足が慢性的な問題となっています。立ち仕事が多く、体力を要する職場環境が原因で、若い世代の就業希望者が減少しています。
また、業界の平均給与が高くないため、離職率が高いのも人手不足の原因です。特に、栄養士や調理師の不足や人材の入れ替わりが深刻であり、給食の質やサービスの安定性に影響を与えています。
4-2.事業後継者が不足している
給食業界は、以下のような理由から現場だけでなく事業を引き継ぐ後継者も不足しています。
- 給食事業を引き継ぎたいと思う後継者が不足している
- 現場の仕事に追われ、後継者候補が育っていない
- 給食会社の経営状態が悪い
日本給食業経営総合研究所の調査によると、すでに後継者が決定している給食会社が全体の2割で、その他の企業は承継については定まっていないというのが現状です。
そのため、黒字状態にある給食会社でさえも廃業に追い込まれています。
4-3.運営コストが増加している
給食業界では、運営コストの増加が大きな課題となっています。2022年のロシアのウクライナ侵攻や石油価格の高騰、為替円安などが原因で、食材価格や人件費、光熱費が上昇しているのです。
運営コストの増加は、収益性の低下を招きます。コスト削減のための効率的な運営が求められていますが、同時にサービスの質を維持することも重要です。
4-4.競合との差別化をしにくい
給食業界では、競合との差別化が難しいという問題があります。学校給食や介護給食では、栄養バランスやコストが厳密に定められており、提供できるサービスの自由度が低いため、価格競争に陥りやすくなっています。
他社との差別化を図るためには、自社サービスの情報発信が重要です。たとえば、試食会の開催やメニュー開発などを通じて、自社の強みをアピールすることが有効です。
給食業界の課題については以下の記事でさらに詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
5.給食業界のM&A動向
給食業界が抱える課題を解決する手段として注目を集めているのが、M&Aです。給食業界では、M&Aを検討する売り手・買い手が増えています。
5-1.給食業界でM&Aが増えている理由
給食業界では、M&A(企業の合併・買収)が活発化しています。この動きには、給食事業の規模のメリット(いわゆるスケールメリット)の得やすさが背景にあります。
買い手である大規模な企業は、食材の仕入れや輸送コストを削減しやすく、その結果、競争力を高めることが可能になります。最近特に注目されているのは、アジア市場への進出や、海外企業が持つノウハウや商圏の確保を通じた事業拡大です。
一方で売り手の中小規模の給食会社は、価格競争に勝てずに事業譲渡を選ぶケースが増えています。大手同士での競争も厳しく、給食事業を手放す企業も少なくありません。このような背景から、今後も給食業界ではM&Aの動きが続くでしょう。
また、異業種や関連業界からの新規参入も見られます。たとえば、食品や食品卸、介護事業を手掛ける上場企業が、シナジー効果を狙って未上場の給食事業者を買収するケースが増えています。
5-2.M&Aの方法は2種類
給食業界におけるM&Aには、主に2つの方法があります。「株式譲渡」と「事業譲渡」です。
株式譲渡は、売り手企業の株主がその株式を買い手企業に譲渡する方法です。これにより、買い手企業は売り手企業の全ての資産・権利義務関係・従業員・借入金などを引き継ぐことができるため、売り手企業全体を買収したい場合に適しています。
一方事業譲渡は、売り手企業が特定の事業のみを買い手企業に譲渡する方法です。たとえば売り手企業が複数の事業を扱っている場合、給食事業のみを譲渡する際に用いられます。
M&Aの方法は、売り手企業の意向や買い手企業の戦略に基づき、交渉によって決定されます。適切な方法を選ぶことで、両社にとって最適なM&Aを実現できます。
5-3.実際のM&Aの流れ
給食業界におけるM&Aのプロセスについて、一般的な流れをご紹介します。
工程 | 詳細 |
1.資料提供と情報収集 | まずは、必要な資料や情報を準備します。 資料を正確に準備することで、その後の手続きがスムーズに進行するでしょう。 |
2.予備的価値の評価 | 専門家(会計士や税理士)の監修のもとで、企業の予備的な価値評価を実施します。 この段階で、おおよその譲渡価格や条件を決定します。 |
3.基本合意書の締結 | 買手候補企業との間で大枠の条件が固まったら、基本合意書を締結します。 この合意書は法的拘束力がありませんが、この段階から独占交渉が始まります。 |
4.詳細事項の調整 | 基本合意と買収監査の結果に違いが見られた項目を重点的に調整し、詳細な事項を決定します。 同時に、M&A実施後の体制についてもすり合わせます。 |
場合によっては工程が変更されることもありますが、基本的な流れは上記となります。
5-4.給食会社のM&Aによるメリット
給食会社のM&Aによって生まれるメリットを、売り手と買い手それぞれの視点からご紹介します。
5-4-1.売り手側のメリット
給食事業の事業譲渡を行う際、売り手が得られるメリットは以下の通りです。
- 取引や雇用契約を継続できる
- 将来性に対する不安を払拭できる
- 後継者探しの手間をなくせる
事業譲渡後も、契約者の同意を得て取引や雇用契約を継続できるため、従業員や関係者への影響を最小限に抑えつつ、経営からの引退や事業撤退が可能です。
また買い手が食材を取り扱う事業者であれば、食材の購入コストを削減でき、価格競争にも打ち勝てる可能性があります。
さらに、新しい経営者が事業を継続してくれるため、自社で後継者を探す手間が省けます。
5-4-2.買い手側のメリット
給食事業の買い手が得られる事業譲渡のメリットは以下の通りです。
- コスト・賃金を削減できる
- 売り手の顧客を獲得できる
- 人手不足を解消できる
事業規模の拡大により大量購入が可能となり、食材コストを削減できます。同時に売り手の設備やノウハウを活用することで、作業効率が向上し、賃金も削減可能です。
また事業譲渡により売り手の顧客を引き継ぐことで、新規顧客を探す手間を省き、迅速に事業規模を拡大できます。
さらに売り手からの人材確保により、慢性的な人手不足を解消できます。特に、負担の大きい給食業界の労働環境において、必要な人材を確保することが重要です。
5-5.M&Aによって会社を売却するときに考えること
会社を売却する際に考えるべきポイントは、主に3つあります。
5-5-1.引退の時期を決める
M&Aを実施するときは、明確な引退の時期を決めることが重要です。「事業が上手くいったら」という漠然とした条件ではなく、具体的な年月を設定することをおすすめします。時期を決めることで、実現への強い意志が生まれるためです。
たしかに経営状態が良いタイミングで売却できれば、より有利な条件でリタイアすることはできますが、「企業価値が上がったら売却」という曖昧な決め方では、決断が先延ばしになりやすいです。そのためM&Aの時期は、明確に決めておきましょう。
5-5-2.売却前に経営環境を整えておく
安心して事業を譲渡するためには、経営者の頭の中にある重要な情報を整理しておきましょう。特に、従業員に対するケアが重要です。
各従業員の性格や役割などを事業引継ぎの際に伝えておかないと、M&A後の組織運営に支障が出る可能性があります。事前に整理することで、スムーズな引継ぎが実現するでしょう。
5-5-3.専門家アドバイザーを見つける
会社を売却する際には、専門的な知識が必要です。M&Aの専門家のサポートを受ければ、M&Aの工程がスムーズに進みます。
中小企業のM&A実績が豊富で、評判の良いM&A仲介会社を選ぶと良いでしょう。複数の仲介会社と面談し、相性の良さそうな会社を選ぶのも一つの方法です。
6.日本給食業経営総合研究所が給食業界のM&Aを支援いたします
給食事業のM&Aをご検討中の経営者の方は、ぜひ日本給食業経営総合研究所へご相談ください。
当社では、日本で唯一の給食専門コンサルティング会社として、さまざまな給食会社を支援しています。
もちろんM&Aの支援実績も多数ございます。当社はM&Aセンターと提携しているため、給食事業を買いたい候補を複数お出しすることが可能です。給食事業のM&Aについて不安を感じている方は、ぜひ一度ご相談・お問い合わせください。
7.まとめ
給食業界は、高齢者や在宅医療患者数の増加に伴い、将来性の高い業界とされています。ですがその一方で、人材不足や運営コストの増加など、さまざまな問題を抱えているのも事実です。
給食業界が抱える課題の解決策として注目されるのが、M&Aです。M&Aであれば、事業の売り手が抱える課題を解決しながら、給食事業の拡大につながります。
日本給食業経営総合研究所では、給食会社様の事業売却を支援しております。また、給食会社を買いたいとお考えの企業様への仲介も可能です。給食事業のM&Aをご検討中の方は、ぜひ当社までご相談ください。