介護施設や老人ホームが、施設の利用者向けに給食を提供するうえで、品質低下や人員不足などの課題となることが多いです。そこで注目されているのが、委託給食。この記事では、以下の内容を解説しています。
- 介護施設・老人ホームで取り入れられている委託給食の概要
- 委託給食における3つの種類
- 介護施設・老人ホームが委託給食を利用するメリットや注意点
- 介護施設・老人ホームが給食会社を選ぶ際のポイント
この記事を読むことで、介護施設や老人ホームが給食を外部に委託する利点や選ぶときのポイントまで、幅広く理解することができます。給食サービスに悩む介護施設や老人ホームの方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
1.介護施設・老人ホームで取り入れられている委託給食
給食サービスを提供する介護施設や老人ホームの中で、人員不足やコストの課題から給食を外部委託する施設が増えています。まずは、介護施設・老人ホームにおける給食サービスの課題点や、外部委託が注目され始めている理由について解説していきます。
1-1.介護施設・老人ホームにおける給食サービスの課題点
現在、介護施設や老人ホームは多くの経営課題を抱えています。そのなかでも、給食について改善すべきポイントは多いです。実際日本給食業経営総合研究所にも介護施設給食についてのご相談を多くいただいています。
とりわけ顕著な課題が、人手不足・経費削減・業務改善・マニュアル整備・人材採用などです。
今後時代の流れとともに人材不足が進めば、働きやすい環境無しに人が簡単に採用できる時代は来ることはありません。つまり働く環境や業務自体の見直し無しに改革は有り得ないということです。
1-2.委託給食が注目される理由
前述したような介護施設や老人ホームの給食サービスが持つ課題を解決するために、近年委託給食が注目されています。
たとえば、施設の規模が大きくなればなるほど、調理体制もそれに沿った組み立てが必要になり、仕組が必要になります。仕組みが正しく作れないと、厨房のスチコンや冷却器を正しく使用できていなかったり、調理方法が属人化したりといった問題がでかねません。
それらの問題・課題を解決してくれるのが、外部の給食会社です。給食会社は、給食のプロフェッショナルです。仕入れに始まり、仕込みから冷却までの調理は当然ながら、綺麗に盛り付けるノウハウもあります。食に関連するすべての知見・ノウハウを持っているというわけです。
外部の給食会社に委託することで、施設の給食利用者に対し正しく給食を提供できるようになることが、委託給食が注目されている最大の要因です。
関連記事:委託給食とは?メリット・デメリットや委託先の選び方6選を解説
2.委託給食における食事の種類
自身の施設で委託給食を取り入れたいとお考えの方がまず理解すべきなのが、委託先の給食会社が提供する食事の種類です。今回は、代表的な以下の3つについて解説していきます。
- クックチル
- 完全委託給食
- 冷凍
それぞれの特徴を理解し、施設にとって最適な種類の食事を選択しましょう。
2-1.クックチル
クックチルでは、冷蔵された食事を提供直前に加熱し盛り付けるだけで、できたてのような食事を楽しめるというものです。食事は工場で急速冷却しているため、料理の鮮度と風味を長期間保つことができ、細菌の増殖を抑え高い衛生管理を実現します。
また、毎日配送されるため保管場所をとらずに手間をかけた料理を楽しめることから、多くの施設で利用されています。特に介護施設や老人ホームでは、料理の下準備を減らすことから、介護スタッフの負担軽減に繋がっています。
関連記事:クックチルシステムとは?調理の流れや給食におけるメリット・デメリット
2-2.完全委託給食
全ての食事調理を外部に委託するスタイルで、特に人員が不足している多忙な介護施設で効果的です。介護職と調理の二重業務を解消し、スタッフの作業負担を軽減できます。
給食自体は専門の給食センターで準備され、定められたメニューに基づき施設に直接配送されます。これによってスタッフは介護に集中でき、施設全体のサービス品質の向上に貢献しています。
2-3.冷凍
冷凍された食事を、湯煎や電子レンジを利用して温め提供する食事です。この手法は、食材や人件費のコストを削減と、保存期間の長さから計画的な食事管理に貢献しています。ただし、食事保存のためには大量の冷凍庫が必要です。
最近では多くの給食会社が様々な冷凍介護食を提供しており、選択の幅が広がっています。冷凍技術の発展により、課題だった味の質も向上。利便性と経済性を兼ね備えた解決策として注目されています。
3.介護施設・老人ホームが委託給食を利用するメリット
介護施設・老人ホームが委託給食を利用することで、以下のようなメリットが生まれます。
- 衛生面や栄養面が担保される
- コストカットに繋がる
- メニューのマンネリ化を防げる
- 給食に関わる業務の手間が省ける
それぞれ解説していきます。
3-1.衛生面や栄養面が担保される
介護施設での給食だからこそ、衛生面や栄養面には一層の注意が必要となるなか、委託給食では衛生面・栄養面を担保できます。
現在多くの給食会社は、クックチルをはじめ菌繁殖抑制に秀でた方法を導入しています。委託給食を利用することで、介護施設では実現のハードルが高い衛生面や栄養面の管理を簡単にできるようになるのは大きな魅力です。
3-2.コストカットに繋がる
施設での給食サービスを外部に委託することは、コスト削減につながります。
多くの介護施設では、給食部門の正職員比率が高く、それに伴い人件費も増加しています。場合によっては、介護職員が人材不足を補うため一時的に給食部門を手伝い、結果として長期間給食部門で働くケースも。人件費を削減するためには正職員の比率を下げ、パートやアルバイトで運営できる体制への転換が必要です。
また、大規模な介護施設では厨房に高額な設備投資を行っていますが、そのメンテナンス費や修繕費など、予期せぬ経費が発生することが多いです。
人材や設備のコストに悩む経営者にとって、委託給食は問題解決の糸口になり得ます。委託給食であれば、加熱や湯煎だけで美味しい食事を提供でき、いままで給食提供のためにかけていた人件費と設備投資費といったコスト削減につながります。また、新設施設の場合にも設備投資の必要がなく、スペースを有効に活用できるため、介護施設全体の運営効率を高めることが可能です。
3-3.メニューのマンネリ化を防げる
施設が給食を提供するうえで、利用者の満足度を高めることは責務といえます。委託給食を利用すれば、マンネリ化しがちな食事メニューを定期的に変更していくことが可能です。
朝食、昼食、夕食に加えておやつまで含む献立を組むには、食事に対する専門的な知識と考案する時間もかかり、かなりの手間となるでしょう。その点委託給食では多様なメニューが用意されており、施設のスタッフはこれらから選ぶだけで、日替わりで施設利用者に新鮮な食事を提供することが可能です。
バリエーション豊かな食事は、毎日同じメニューで飽きるといった利用者の声に応えられ、利用者の満足度向上が期待できます。
3-4.給食に関わる業務の手間が省ける
給食に関わる業務のなかで特に時間を要するのが、「仕込み」と「洗浄」です。日本給食業経営総合研究所が実施した調査のなかで、仕込みという業務を分解してみると、「準備20%」「仕込み60%」「移動10%」に分けられることが分かっています。
この数字は、仕込み時間の内実際に仕込んでいる時間はその内の60%であり、それ以外は別業務または移動しているという意味合いです。つまり、仕込みを無くすことのインパクトは余計な時間を削ぐことだけでなく、その時間自体を別工程に充てることが可能となるわけです。
仕込み部分がそのままなくなり、業務が簡略化されることが、委託給食を導入するメリットといえます。
4.介護施設・老人ホームが委託給食を利用する際の注意点
介護施設や老人ホームが委託給食を利用する際は、以下の3点に注意してください。
- 施設利用者とのつながりが弱まる可能性がある
- 給食会社と施設でコミュニケーションが取れないことがある
- 給食の品質が安定しないことがある
これらを意識することで、委託給食によるメリットを最大限享受することが可能です。それぞれ見ていきましょう。
4-1.施設利用者とのつながりが弱まる可能性がある
介護施設や老人ホームでは、手作りの食事を提供し、利用者と一緒に楽しむことで、スタッフとの絆が深まります。しかし、給食サービスに切り替えると、その機会が減少するため、利用者とのつながりが弱まる可能性があり注意が必要です。
ですが、介護現場では効率的な業務運営も重要です。施設は、利用者との交流と効率的な運営のバランスを考える必要があります。
4-2.給食会社と施設でコミュニケーションが取れないことがある
給食センターは、介護施設以外にも様々な施設に給食を提供しています。そのため、介護食に特化していなかったり、あまりコミュニケーションをとってくれなかったりする会社もあるのが実情です。
介護施設が給食を委託する際は、高齢者の健康状態に合う献立を提供できる給食会社を選ぶ必要があります。具体的な献立内容を確認し、介護施設のニーズに合っているかを確認することが重要です。
4-3.給食の品質が安定しないことがある
委託給食を利用する介護施設は、実際に給食センターを見学して食事のクオリティを確認することをおすすめします。利用者の多くは普通の食事ができないため、給食の品質は非常に重要です。問題のある給食会社と契約してしまうと、他社に切り替えるのに時間とコストがかかります。
そのため、事前に十分に調査をし、安定した品質の給食を提供できる会社を選ぶことが大切です。
5.介護施設・老人ホームが給食会社を選ぶ際のポイント
介護施設や老人ホームが給食会社を選ぶ際は以下7つのポイントを意識してください。
- 衛生管理が徹底されているか
- 栄養のあるメニューを提供してくれるか
- 商品力があるか
- 対応力があるか・融通が効くか
- トータルコーディネートしてくれるか
- 行事食があるか
- 口コミが良いか
それぞれ解説していきます。
5-1.衛生管理が徹底されているか
給食会社の衛生管理は、最も確認すべきポイントです。義務化された「HACCP」を取り入れた衛生管理がおこなわれているかどうか、また企業がそれを発信しているかを確認してください。
過去の事故の有無よりも、その際の対応や企業努力がなされているかが重要です。施設の管理手法に基づき、帳票や工場見学ができるかを確認するのがよいでしょう。
また、調理法も衛生管理に大きく関わります。菌の繁殖を抑制するクックチル製法の採用状況や、その基準の遵守状況もポイントとなります。
5-2.栄養のあるメニューを提供してくれるか
介護施設が給食を委託する場合、高齢者の健康維持のために、提供される食事の栄養管理が重要な要素となります。
高齢者の場合、低栄養が原因で体重が減少し、免疫力の低下や活動性の低下につながる危険があります。さらに重症化すれば寝たきりになる可能性も。低栄養の傾向は、高齢者の不規則な食生活が主な原因となっています。
高齢者の低栄養を防ぐため、委託先が栄養バランスの取れた適切な食事メニューを提供しているかどうかを、介護施設側で入念に確認してください。
5-3.商品力があるか
商品力とは「価値/価格」で表現されます。具体的には、量(g数)、質(見栄え、デザートの有無)、幅(調理法、和洋中のバランス)、数(おかずの品目数)などの指標で評価される指標です。
これらの指標が、業界標準値を上回っているかを見極めることが大切です。価格については、800円前後が相場とされています。
5-4.対応力があるか・融通が効くか
委託先の給食会社が、普通食・ムース食・備蓄保存食といった基本的なメニューに漏れなく対応できるかがポイントです。さらに、刻み食やユニバーサルデザインフード対応商品の取り扱いも加点要素となります。
これらの工程が全て一社完結である必要はなく、取引先からの仕入れでも問題ありません。介護施設にとっては、給食会社1社に信頼して任せられるかが重要です。
また、給食会社による製造や販売が、介護施設の地元や近隣であると融通が効きやすい傾向にあります。特に通所・デイサービスなど人数変動が激しい施設では、地場の給食会社に依頼することでストレスが軽減されます。
5-5.トータルコーディネートしてくれるか
介護施設が給食サービスを活用する際、単に食事提供だけでなく、給食会社の持つ多様な機能を活用することで、施設経営全体の改善につなげることができます。
たとえば、食材の仕入れや献立作成など、給食会社と連携して介護施設の経営を見直す事例が増えています。特別な行事での職員や利用者向けの弁当・オードブルの提供など、給食会社ならではのサービスも活用できます。さらに、日常的な食材調達についても、給食会社に相談し柔軟に対応してもらえる可能性もあります。
このように、給食サービスを単なる食事提供の枠組みを超えて、施設経営全般の改善に役立てられるかどうかを、給食会社の対応力を確認しながら検討することが重要です。給食会社との綿密な連携によって、介護施設の経営効率化につなげられるでしょう。
5-6.行事食があるか
介護施設のメニューでは、味や栄養バランスはもちろん、飽きのこない見た目の工夫も重要です。
そのため、給食会社が提案する行事食の内容を確認することをおすすめします。
5-7.口コミが良いか
給食会社の口コミや利用者の声は、必ず確認してほしいポイントです。また、給食会社のサービスに、サービスを利用した介護施設の声が反映されているかを確認しましょう。
給食会社のホームページの更新頻度と内容も、その企業の熱意を表すバロメーターになります。
6.まとめ
近年、委託給食のサービスを利用する介護施設や老人ホームが増えています。委託給食を利用することで、施設が抱える経営面の課題を解決できることが大きなポイントです。
また委託先の給食会社を選ぶときは、衛生管理の状況や商品力・対応力・メニューの多様性などを確認し、数社で比較するのがおすすめです。最適な給食会社を選定することで、施設が持つ経営課題の解決につながります。
日本給食業経営総合研究所では、その経験と給食業界に専門特化しているという強みを活かして、あなたのビジネスを支援します。給食業務に関するお悩みをお持ちの方は、「日本唯一の」給食業専門総合コンサルティング会社である日本給食業経営総合研究所にぜひご相談ください。